ボロン (B) (ホウ素)地球化学的概要

ボロンには2種類の安定同位体 (10B, 11B) および13種類の放射性同位体 (安定同位体を除く7Bから21Bが存在します。 安定同位体はすべて天然であり、10Bが20% 、 11B が 80%を占めます。

boron isotopes

地球化学分野の研究において一般的に用いられる2つのボロン安定同位体(左)および13種類の放射性ボロン(右)

ボロン同位体比は、地球システムおよび環境条件の違いにより区分されます。それゆえ、このパラメータは地球化学的フィンガープリント、起源追跡、汚染予測、地球炭素サイクル、海洋循環研究など広範囲で用いられます。

ボロン分析が可能な試料の種類: 貝殻、サンゴ、炭酸塩、水
ボロン分析のための 試料の種類と選択 についての詳細

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このビデオは Beta Analyticのウェビナーの一部です。: Boron Isotopic Analysis

古気候学 & 古海洋学

海水中の溶存ボロンは、ホウ酸 (H3BO3 or B(OH)3) およびホウ酸塩 (BO3-3 or B(OH)4), の2種類の形態で存在します。これら2つの形態の同位体には明確な違いがあり、ホウ酸は27.2%重い同位体 (11B) に富みます。 2つの形態の相対的な存在比はpHに依存します。

B(OH)3 + H2↔ B(OH)4 + H+

High pH Low pH

ボロンは生体および無機炭酸塩に主にホウ酸塩として取り込まれます。生物起源の炭酸塩(貝など)に取り込まれるボロンの種類と濃度はpHに依存します。従って海洋の生物起源炭酸塩のボロン同位体は海水のpHを反映します。

Boron and pH in sediments 過去15万年における北大西洋の堆積物コアから得られた海洋炭酸塩のδ11B と pH の関係(Chalk et al., 2019)
pHレベルが低い海洋では、ボロンは主に B(OH)3 の形態で貝に取り込まれます。一方pH が高い場合は B(OH)4−が優先的に選択されます。一般的に、海水のpHが0.1ユニット増えると海洋生物の炭酸塩のδ11B は約1‰ 増えます。海水のpHは二酸化炭素 (CO2) 濃度を反映するので、δ11B は過去の大気中 CO2 濃度 (pCO2) を復元するためのプロキシとなります。つまりグローバルな炭素循環において過去の気候変動を理解するための重要な手段のひとつとなりえます。ボロンと海洋のpHの関係は海流スケールでの分析に用いることができ、最終退氷期の海洋のCO2の減少を裏付ける証拠となりました。(Martínez-Botí et al. 2015).
chemical composition of boron

pH と2種類のボロンの形態の関係 (https://jpt.spe.org/comparison-methods-boron-removal-flowback-and-produced-waters)

地球化学的フィンガープリントと汚染起源の追跡

ボロンは、工業では潤滑剤や添加剤として、農業では肥料の微量元素として、また家庭では漂白剤としてなど様々な用途に用いられていますです。製鋼業では製品の硬化性能を高めるための重要な添加物として用いられています。またボロン鋼は原子炉用の材料としても用いられています。その他では、ホウ砂(“Borax”)として知られているボロンの化合物は洗剤の漂白作用の強化剤、カビの除去剤、化粧品の保存剤などに用いられています。

Boron Release New

1972 以降環境に放出されたボロンの推定量(Data from EPA-68-01-3201,1976).

ソース別による水のボロンおよび窒素同位体比 (Briand et al., 2013).

このようにボロンは非常に多くの用途で使用されているため、常に環境へ放出され続けています。アメリカ環境保護局(EPA, 1976)のデータによると1972年だけで、35.5キロトンのボロンがが環境中に放出されました。そのうち73% が直接水系に入りました。こういったボロンの放出は環境中でボロンは破壊されず、形態を変えて土壌や水に吸着するので問題となります。また植物にとって必要な成分であるので野菜や果物などの食物にも含まれています。

References

Briand, C., Plagnes, V., Sebilo, M., Louvat, P., Chesnot, T., Schneider, M., Ribstein, P. and Marchet, P., (2013). Combination of nitrate (N, O) and boron isotopic ratios with microbiological indicators for the determination of nitrate sources in karstic groundwater. Environmental Chemistry, 10(5), pp.365-369. DOI: 10.1071/EN13036

Chalk, T.B., Foster, G.L. and Wilson, P.A., (2019). Dynamic storage of glacial CO2 in the Atlantic Ocean revealed by boron [CO32−] and pH records. Earth and Planetary Science Letters, 510, pp.1-11. DOI: 10.1016/j.epsl.2018.12.022

EPA (Environmental Protection Agency), (1976). Chemical technology and economics in environmental perspectives. Task II- Removal of Boron from wastewater. Environmental Protection Agency, Office of Toxic Substances, Washington, D.C. 20460

Giri, S.J., Swart, P.K. and Pourmand, A., (2019). The influence of seawater calcium ions on coral calcification mechanisms: Constraints from boron and carbon isotopes and B/Ca ratios in Pocillopora damicornis. Earth and Planetary Science Letters, 519, pp.130-140. DOI: 10.1016/j.epsl.2019.05.008

Martínez-Botí, M.A., et al. (2015). Boron isotope evidence for oceanic carbon dioxide leakage during the last deglaciation. Nature, 518(7538), pp.219-222. DOI: 10.1038/nature14155